星円盤計算器(STAR SLIDING DISK) No.1660
北陸富山市内で開発発売された星円盤計算器のフルLogLog版No.1660です。
これは同じく富山市内在住の現在72歳の現役技術者の方が工業高校進学の際に購入したもので、卒業後に関数電卓などを購入したものの、簡単な計算は手慣れた計算尺のほうが使い勝手が良くて今まで手元に残しておいたものだそうです。
そのご当人は同一市内の稲垣測量機械店で開発発売されたものだということはまったくご存じなく、そのことをお話したら大変に驚いておられました。 団塊世代の方ですから高校進学は昭和40年前後だと思いますが、稲垣測量機械店のことをご存知ないとしたら、そのときすでに星円盤計算器の製造は止まっていて、流通在庫しか残っていなかったということでしょうか?
さすがにずいぶんと使い込まれた計算尺で、カーソルは擦り傷だらけ。カーソルバーは一般的なコンサイスのようにバネで押さえているものではなく、おそらく溝に貼ったフェルトのフリクションで止まっているものがそれがすっかり擦り切れてカーソルがブラブラになり、中心ねじ軸に不格好なシムを何枚か重ねてカーソルが止まるようになっているというシロモノでした。まさに満身創痍の歴戦の勇士という感じですが、不思議とそういう使い込まれた計算尺には何か役目を終えたすがすがしさのようなものを感じます。
星円盤計算器では最も尺種の多い計算尺で24種を数えます。表面外側からLL3,LL2,LL1,LL0,K,A,D,C,CI,EI、EIは1から√3と√3から10を一周とする2本の逆尺です。またカーソルがD,A,上に副カーソル線を持つため、主カーソル線がオフセットされておりカーソル上にもすべての尺種が赤字で刻まれています。
裏面は外側から-LL3,-LL2,-LL1,-LL0,L,DI,D,T,S,T,S,T,ST,となっており、微小角もゲージマークなど使用せずにかなり正確に読み取れるということは、元々が測量機械店の開発であるということのこだわりでしょうか?tanの配分は4.5°-84°、5°45'-45°、35'-5°43'の三分割、sinは5°45'-90°、35'-5°45'、最微小角はもうtanと変わらないレベルとのことでTS目盛りとなり共用の10'-35'となってます。ここまで三角関数の微小読み取りにこだわった計算尺は本当に珍しいようです。ちなみに画像のように表面はカーソル下向きがカーソル上に刻まれた尺種類記号が正立する正位置で、裏面はそのまま裏返してカーソルが上向きなのか正位置です。
何せ使い込まれた計算尺ですからクリーニングと傷消しも大変でした。まずカーソルの真ん中のねじを外し、さらにカーソルバーから片側三本のねじを外してばらばらにし、本体はマジックリンで磨くと当時の職場環境もあったのでしょうけどたばこのやにのコーティングが取れてほぼ元のセルロイドの風合いに戻りました。素材はコンサイズのような塩化ビニールではなくセルロイドで間違いないようです。カーソルは裏側に簾のように付いた擦り傷を久しぶりに用意したアクリルサンデーのアクリル専用研磨剤でひたすら磨き倒すとほぼほぼ目立たないようなレベルになりました。
カーソル裏は毛糸状のもの、実は手近に転がっていたランタンマントルの締め付け糸の切れ端を挟むと、これが見事にフィット。きつからず緩からずでちょうどいい感じになり、組み立ててそこそこ見ることのできる星円盤計算器No.1660のクリーニング終了。
この前所有者の方、高校入学の時に購入したというお話でしたが、高校の授業ではやはり棒状計算で授業が進められるでしょうし、円形計算尺はその内側ディスクのとっかかりの無さから計算尺さばきが遅くなり、スピード計算に向かないという致命的な欠陥があります。村上次郎氏のように円形計算尺で工業高校教育用に食い込もうとした革新的な思想の計算尺教育者もいますが、当時はやはりスピードと正確さが競技として盛んだった時代にこの一連の円盤計算尺が食い込もうとしたのは無理があったような。
国内では北陸三県と長野辺りからしか出て来ない星円盤計算器ですが、実はアメリカに輸出されていたことを今回調べて初めて知りました。もちろんどこかの輸出業者が仲介して輸出に及んだのでしょうが、当然のこと英語版の箱ラベルと英語版の説明書が付属しており、No.120、No.130、No.250の3種類の存在が確認されていてNo.1660はまだ見つかりません。
もしかしたら稲垣測量機械店の廃業後に仕掛品や在庫が他社にわたり、それがアメリカに換金のため渡ったのでしょうか? 何せ個人商店規模の会社の製品のため、そういうこともあったのかもしれません。
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