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October 13, 2020

A.W.FABER Nr.378 10”電気用 再び

 A.W.FABERのNr.378電気用です。これは以前に讃岐のさる旧家から出てきたという殆ど未使用に近いような程度の良いものを入手済みだったのですが、同じくA.W.FABERの古い計算尺ということがわかっていたものの形式がわからず、届いてみたら同じNo.378だったために調べる項目もなくダンボール箱の中に収められてしまったもの。おそらくは数年以上前に金額は700円なのにもかかわらず誰も見向きもしなかったのでかわいそうになってサルベージしたもので、発掘先は忘れました。以前のNr.378と比べると相当に使い込まれたもので、ケースはボロボロ、カーソル剥がれどめの木鋲は1本抜けてますし、カーソルグラスもヒビが入っています。それでも本来の役目を果たした計算尺の凄みのようなものを感じてしまいますが…
 このNr.378は逸見治郎によりJ.HEMMI No.3電気用としてフルコピーされ、折しも第1次世界大戦が勃発し、ドイツからの計算尺の輸入が途絶えた連合国側に輸出されて外貨を稼いだわけです。当然のこと根っからの目盛職人である逸見治郎は、その電気尺の目盛りやゲージマークなどの意味することはまったく理解はしていなかったでしょう。ただ機械的にNr.378をコピーしてしまったのでしょうが、本国ではまもなく逆尺付きのNr.398に生産がシフトしていきます。そういう計算尺の世界的な流行のようなものがわからなかった逸見治郎は大倉龜からの経営参加申し入れが無く、宮崎治助のような理論派が製作に参加せず、旧態依然の計算尺を作り続けていたとしたら、日本の計算尺が世界を席巻するという歴史はなかったかもしれません。
 今回のものは以前のNo.378同様に明治末期から大正の初期に銀座の玉屋商店によって輸入されたもので、年代も一緒なら目盛やゲージマークにも全く差がないのは当然です。それだけ比較による興味をひかれるポイントがまったくないのですが、それでも日本にやってきて100年はゆうに経過している計算尺です。器物100年超えると付喪神となって化けて人をたぶらかすそうですからおいそれとはうっちゃっておけないそうです(笑) さて、計算尺はどのように化けるのかと水木しげる先生的に考えると、おそらくはムカデみたいに足が生えてそこいらを這い回る「妖怪ゲージゲージ」になってしまうのではないかと(笑)
 とりあえず化けられては困るので、機会があったら抜けた木鋲を竹で作り直し、カーソルグラスを移植するか、ポリカーボネート板で作り直すかしなければいけません。
 ところで、この時代のドイツの計算尺は英国尺がマホガニー製だったのに対して西洋梨材を使用した木製尺が多いのです。英国が植民地から豊富な木材資源が入ってきたのに対し、ドイツはマホガニー材を産出するような植民地資源に乏しく、そのため国内調達の可能で材質が緻密な西洋梨材を選んだのでしょう。
 このNo.378も日本にやってきてから軽く100年を経過しながら長年の湿気による反りや狂いなどがまったくありません。これはすごいことだと思いましたがよく観察すると2本の固定尺ともに表面に対して直角に金属の帯板が入っているのが見えます。これのおかげで100年経っても狂いが来ない木製計算尺を実現していたのでしょうが、贔屓目にはやはり竹を色々組み合わせて狂いのこない計算尺を考案した逸見治郎の業績は偉大です。

Faber
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