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November 28, 2020

三菱金属ダイヤチタニット切削速度計算尺

 三菱金属(現三菱マテリアル)から発売されていたダイヤチタニットという超硬合金を使用した切削工具用に製作した切削速度を計算するための計算尺です。この計算尺は素材の直径(D:mm)、旋盤の回転数(N:rev/min.)、切削速度(V:m/min.)の三要素しかありませんが、工業簿記的にみると、この切削時間というのが製品が時間あたりどれくらい製造できるかということと機械の減価償却など原価計算の重要な要素になっており、これらがおろそかになると製品の価格も設定できないということなのです。 このような切削速度計算尺というのは日本では専ら切削工具メーカーのサービス品のような扱いで、他には東芝系のタンガロイなどの切削計算尺もありますが、その全てが薄いプラスチックで作られたカーソルも不要なスライドチャート的なものしか出てきません。
 しかし、欧米には計算尺メーカーによる切削速度計算尺というのがちゃんと存在し、うちにもドイツのNestler No.26がありますし、他にもAW FaberからNr.348や1-48なども発売されています。諸外国では1970年辺りまで存在した切削速度計算尺ですが、日本の主な計算尺メーカ2社ではこの分野にまったく手を付けた様子がありません。これが非常に不思議な感じがしますが、これは当時の工業的な成熟度の違いで、日本では旋盤職人の親方の仕事に合理的な切削速度を計算する必要は無かったでしょうし、大メーカーはこういう挽き物のパーツは下請け孫請け町工場の仕事で、原価計算には部品仕入れの値段しか必要なかったという産業構造がこの手の計算尺が大手で作られなかった原因かも知れません。ただ、金属製円形計算尺の藤野式にNo.2557号として工作機械用マニシストコンピュータという工作時間計算尺発売の予告が出ていたことがあるのですが、玉屋発売の片山三平著の「最新計算尺原理及使用法」の藤野式計算尺使用法の部分は、版を重ねても一向にNo.2557号が出てこず、今だかつて現物を目にすることもなかったため、もしかしたらなんらかの理由でお蔵入りしてしまったのかもしれません。このNo.2557号が発売されたら我が国最初の素材と切削時間に特化した工作時間計算尺になったはずですが、この藤野式計算尺No.2557号は戦後、藤野式円形計算尺が元になったコンサイスの工作時間計算機として世に出ますから、こちらが日本で最初の工作時間計算機になるのでしょう。
このダイヤチタニット切削速度計算尺は製造したのがどこかの手がかりはありませんが、おそらくは山梨系のメーカーの仕事でしょうか?

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November 27, 2020

HEMMI No.153両面電気技術者用計算尺の戦前戦後

 HEMMIの両面計算尺であるNo.153は昭和4年に発表されたユニバーサル型計算尺としてNo.150やNo.152に続いて昭和6年から発売された電気技術用計算尺です。特徴としては宮崎治助が考案して特許をとった二乗尺P尺Q尺を使用するベクトルの絶対値を簡単に求められるなどの交流電気技術に特化した計算尺ですが、べき乗尺を備えた両面尺の嚆矢だったこともあり、戦前は電気以外にも広く機械技術部門の設計者などにも使用されたため、戦前のNo.153は戦後に発売されたNo.153よりもはるかに多い数が世の中に出回ったような印象があります。もっとも戦後には分野別に専門の両面計算尺が続々と発売されて、相対的にNo.153の需要が減ったということが大きいのでしょうが、このNo.153は青蓋プラケースの昭和40年代後半まで実に40年近く製造され続けたHEMMIにあってはもっとも寿命が長かった計算尺の一つです。この青蓋プラケース入りの未開封品No.153を秘蔵していたのですが、なぜかデートコードが見当たらず、謎のNo.153でした。これは十分に検証を進めないうちに祖父の従兄弟で宮崎一族の卯之助氏のお孫さんの基彰さんに進呈いたしましたので、今は手元にありません。基彰さんは当方よりも10歳ほど年長ですが、幸いにも受け継いでくれるお孫さんもおり、宮崎一族の治助氏が考案した計算尺として引き継いでくれるはずです。
そのため、我が家には戦前のNo.153しか残っていなかったのですが、今回中古の昭和30年代もののNo.153を入手しましたので、両者の違いを検証してみたいと思いました。基本的には尺度や尺配置などには変更が無いのですが、一番目立つ変更点はC尺D尺の4-5の目盛が戦前は1/20、戦後のものはオキュパイドジャパン時代にすでに1/50刻みに変更になっています。ちなみにHEMMIの両面計算尺のこの部分の目盛が1/50のものはNo.250、No.P253、No.254Wの一部、No.254WN、No.264、No.266、No.274などがあり、1/20刻みの主なものはNo.251、No.255及びNo.255D、No.256、No.257、No.259及びNo.259D、No.260、No.P261、No.P267などがあり、主に事務用や学生用が1/50刻み、技術用が1/20刻みである傾向があるようです。あえて戦後すぐにNo.153がこの部分を変更したのはなぜだったのか、興味があるところですが、その他には戦前物はL尺末端の数字がちゃんと「10」なのに戦後物は「1」と0を省略。C尺D尺上の微小角計算用のゲージマークが異なり、戦後物は2から5の間の0.5単位でアローが付されています。また、戦前もののGθ尺も末端の数字は6なのに対して戦後、おそらく30年代になってから4部分に付番。戦前物はA,B,尺上にMゲージマークがあるのに戦後物は省略。戦前尺CI尺の1-2の部分は1/10ごとにすべて赤の数字が刻まれているのに戦後物は1.5部分に入るのみ。戦前物は裏面Q尺折返しのQ'尺の尺種記号も数字も赤で入っているのに戦後尺は記号も数字も黒で入れられています。またLL1尺の1.02から1.05までの間は中間部分にアローが入れられるも戦前ものには無し。戦前もののπマークは足が釣り針足なのに戦後型はJ型足ですが、これは世界的な流行に従っているのでしょう。しかし、当方はクラシカルな釣り針足のπマークにデザインの妙を感じるタイプです(笑) 戦前は革ケース裏に形式シールが貼られていたので本体に形式を刻んでいませんが、戦後物になって始めて本体に形式名が刻まれるようになりました。また尺種記号は戦前モノのほうが圧倒的に大きく、このベースボディーにはトータルデザイン的にマッチしているような気がするのですが、戦後物はこの記号のポイントが両面尺で統一されてしまったのか、いささか小さすぎるきらいもあります。また、カーソルは戦前物は当然枠に段なしのカーソルバネが八の字型で、戦後は20年代が段なし、20年代後半から段付きカーソル枠になったもののバネはまだ両端が接する八の字型。昭和30年代なかばに達して段付きカーソル枠でカーソルバネがV型の頂点一点で接するタイプに変更になりました。ちなみに最初に発売されたものだけフレームレスカーソルが付いていたらしく、オークション上で見たことがあります。
戦前のものが一本だけになってしまったため、今回入手したNo.153は昭和30年代中期以降のものらしく段付きカーソル枠でV字カーソルバネ付きのものでケースは緑の大型HEMMIロゴのもの。デートコードは「LI」と昭和36年9月の仕込みのもの。入手先が新潟の糸魚川市だったのですが、ケースにかなり古い時代に補強で貼られたと思われる紙のクラフトテープが汚らしいので、それを溶剤で慎重に剥がすと、ケースの裏側に「S37年購入大所川発電所用」というマジックインキ書きが現れました。調べたところ、なんと糸魚川市の青海にあるデンカの青海工場に電力を供給するために姫川に大正12年に建設された企業用水力発電所だったのです。奇しくも電気化学工業の前身北海カーバイト工業は王子製紙苫小牧工場に電力を供給する千歳川第一発電所の余剰電力を利用して石灰石と木炭をからカルシウムカーバイトを製造する工場を当時の苫小牧町に建設したのがそもそもの創業で、そのカーバイト工場は大正末期に王子製紙の拡張で余剰電力が得られなくなったため、創業から12年ほどで自前の水力発電所を建設した糸魚川市の青海に移転したという関係があるのです。今でも苫小牧市白金町の王子紙業という再生パルプの製造工場の敷地内に「デンカ創業の地」の小さな記念碑が立っています。そのような苫小牧から移転したデンカの自社水力発電所で使用されたNo.153が創業の地苫小牧に帰ってきたのですから、その不思議な巡りあわせにに驚くばかり(笑) しかも我が家と縁のある宮崎治助氏の考案のNo.153というのも何か出来すぎという感じもします。ただ、うちの苫小牧では昔カーバイド工場があったという話は亡くなった父親世代しか知らない話で、後に王子製紙に引き継がれたカーバイド工場の社宅やカーバイド工場に勤めていてのちに王子製紙の従業員に配置転換した人の「元カーバイドにいた○○さんの息子が…」なんて話が通じる人は現在では皆無になってしまいました。

(上からユニバーサル型時代の戦前No.153表、裏、戦後「デートコード:LI」のNo.153表、裏、ケースの書き込み)

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S37年購入のはずが「購」の字が間違えて講義の「講」の字になってます。「昔は貝が貨幣の代わりにされ、貝で買うから購入なのだ」って学校で習いませんでした?しかし60年近く経過して誤字を指摘されるなんて間違えた人も立つ瀬がありません(笑)

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November 21, 2020

HEMMI No.641 一般技術用

Hemmi641_20201121141302  これもいただきもののHEMMI No.641ですが、うちのNo.641としては2本目になります。用途としては一般技術用となっていますが、明らかに計算尺検定や計算尺競技会に特化しています。片面計算尺の√10切断尺ながら表面にA,B,尺を有し、さらに裏の三角関数は逆尺ですが、表面のD尺DI尺を使用して連続計算ができるなどの操作を減らして答えをなるべく早く行うことを最大の目的にして出来上がった計算尺なのでしょう。それ以前に同じような用途でNo.651というものがありましたが、オフサイズの竹製計算尺で専用のベースボディを持つため、他に転用出来ないというウィークポイントがあり、これを止めて早々に山梨の技研系の会社に委託製造させて出来たのがこの一連のバックプレートプラスチックで固定尺ネジ接合の計算尺なのでしょう。
そのNo.251の直系計算尺がこのNo.641ですが、それ以前に検定上級用という扱いで技研や富士の山梨勢が販売してきたNo.251やNo.2125のほうが一日の長があり、これらのオールプラスチック製計算尺のほうがHEMMIのNo.641よりも製造期間も長く、市場に残っている数もはるかに多いのを見てもNo.641の発売は遅きに期したという以外に言いようがありません。
 でも実際に計算尺競技の手練の方にとってはこういう尺がごちゃごちゃ込み入った計算尺は競技大会ではかえって煩わしいのだそうです。よりシンプルなNo.2664Sが一本あれば尺度の誤認もなく、より多くの操作が必要でもこちらのほうが早いのだとか。まあ、その計算尺にいかに慣れて自分の道具になっているかどうかが問題なのでしょうけど。そのNo.641ですけど山梨系のプラ尺とくらべて唯一のアドバンテージはわざわざ竹芯構造にし、固定尺と滑尺の摺動部は竹どうしのため、滑尺の動きがスムースなことです。これがプラスチックどうしだとどうしても動き始めにやや噛りつきがあり、動きのスムースさや滑尺さばきは竹の計算尺に勝るものがありません。そういえば以前、地元出身のmyuki氏からいただいたタレコミ情報によると、昭和40年に再スタートしてムトウのドラフタースケールなどを製造していた山梨の技研産業に2000年代前半にいまだNo.641が残っていたそうです。そのほかにもいろいろなヘンミ計算尺の山梨OEMの残滓があったそうなので、この事実からもこのNo.641はヘンミの工場を離れて山梨で製造されていたことが裏付けられるようです。不思議なことに山梨OEMとは思えないようなNo.2662やNo.2664S-S、あと両面尺のNo.264などもあったということで、昭和40年代にはヘンミでの竹製片面計算尺の製造ラインは縮小されて、かなりの種類の製造が山梨に移管されていたことが伺えます。
 このNo.641の説明書は初期のものはNo.2662,No.251共用の冊子型にオレンジ色の補足ペラが一枚挟まったものが使用されていたのですが、のちに一般技術用No.641と専用になった冊子型に変わります。このNo.641に付属していた説明書のデートコードは7307TOと昭和48年7月の印刷のようで、本体のデートコードはどこを探しても打たれていませんでした。このNo.641も競技大会の商品なのですが、外箱なしで説明書だけが添えられていたそうで、なぜか本体裏のゴム足が最初から無かったそうです。これ昭和50年以降の競技大会商品だったようですが、HEMMIにしてみれば半端モノかき集めて賞品名目で在庫一掃したのでしょうか?(笑)

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November 08, 2020

HEMMI No.266 電子用の利便性は?

 HEMMIの電子工学用計算尺No.266の2本目を実に16年ぶりに2K円で入手しましたので、その後に判明したことや使い勝手などいろいろ含めておさらいしようと思います。
 No.266以前にはHEMMIにはNo.256という通信用計算尺が存在しましたが、このNo.256の原型というのが太平洋戦争直前に重電の芝浦工作所と合併して東芝になる前の弱電メーカー東京電気が発注した通信用計算尺がルーツです。確か昭和14年位にリリースされたと思いますが、それが戦後にNo.256に発展したものの、急速に広がった回路のトランジスタ回路などの要素がなく、特に回路に重要になってくるフィルターなどで使用する同調周波数を簡単に計算するという要求に答えることはできませんでした。しかし、さすがにHEMMIでは自前でこれらを設計する技術者はおらず、このNo.266は当時トランジスターラジオの小型化で世界を席巻したソニーが昭和36年に設計したものだと言われています。それは確かヘンミサークル誌かなにかで見たような情報ですが。
 このような新しい計算尺のため、発売期間中にケースが3パターン(緑、紺帯、青蓋ポリ)あるくらいで、本体には目立った変更点が無いのですが、唯一周波数の国際単位の変更があり、日本では1972年の7月1日から施行されたサイクルからヘルツへの変更で、このNo.266に刻まれた周波数の単位もMcからMHzに変更になっています。その時期に関してはデートコードがU(昭45年)より前のものには見当たらずU以降のNo.266から周波数単位が変更されたようです。厳密には2年のエージング期間があったと思われますので、昭和45年発売のものがそうだったわけではなく、昭和47年発売のものから新しい単位が刻まれて発売になったということなのでしょう。ちなみにうちのNo.266説明書(6606Y)は当然のことMc表記です。ただ、輸出用に限っては昭和47年以前から変更されていた可能性は否めません。というのもこのNo.266は新しいジャンルの計算尺ということもあり、世界的に重宝されたようで、特にベトナム戦争中の米軍用の備品としても使用されています。うちに以前からあるNo.266は厚木在住のJA1のOMさんからわざわざ譲っていただいたものですが、このNo.266が実は米軍放出品のいわゆるアメジャンとして出たもので、金属部分に備品番号がしっかり刻まれているという珍しいもの。その同じカテゴリーナンバーがワイズの複素数計算尺という大変珍しいスミスチャートを円筒にした相模原から発掘された計算尺にも刻まれていました。米軍のどの部署で使用されていたのかは不明ですが、奇しくもこの2つの出どころは同じでしょう。
 このNo.266の表面べき乗尺はD尺ではなくてA尺に対応しているのが特徴で、そのためにこのような形態になっています。また電気の計算では2πを多用するため、A,B尺C,D尺にも2πのゲージマークが多用されてますが、表面で計算する必要がないためか1/2πや4πなどは見られません。それらの絡む計算は裏面で行うようになります。このNo.266を日常の計算に使用しやすいかというとそれは否で、やはり√10切断やπ切断ずらしを備えている方が使いやすいことは確かです。裏面は各種電気系の計算に使用しますが、まずr1,r2を使用した並列抵抗、直列容量の計算ですが、こんなもの回路図見ただけで頭の中でぱっと計算できないと電気系の試験なんざ合格点もらえません。なのでまったくの不要。インピーダンスだってリアクタンスだって問題用紙の余白に計算式書けば簡単に計算できるから不要。同調周波数計算と言っても基準点から終点の10インチの間に10の何乗もの範囲があるわけで、大まかな数字しか出ないうえには実際に計算するしかないため、これも不要。波動インピーダンス、時定数、限界周波数などといっても公式に数字を当てはめれば計算は難しくないからこれも不要。ってまあ専用計算尺なんて毎日同じ業務をこなさない限りは片面計算尺のNo.2664Sが一本あれば済む話ですから、このNo.266なんかはかえって煩わしいです。
さらに単位の範囲が10の何乗にも及ぶため、かなり誤差のある概数しか読み取ることが出来ず、ちゃんとした答えを要求される試験などにも使いにくいです。
 ただ、ある程度は電気の初歩の初歩くらい齧り、原理原則がわかっていて計算式が頭の中に入っていなければいけませんけど。
 まあ、常に同調周波数などを計算する回路上のフイルターなんかを設計する人だけには有用かもしれませんが、おそらくトランジスタラジオメーカーのソニーの回路設計の利便性のために設計したものですからこういう回路設計に縁のない人は無用の長物。計算式に数字を当てはめていくのであれば、1/2π,2π,4πなどのゲージマークを備え、π切断ずらしのHEMMI No.254W-Sとか√10切断ですがRICOH OD-151の高校電子科向きのもののほうがかえって使いやすいと思いますが…。でも人はなぜかNo.266をけっこうな金額払って欲しがります(笑)
 ちなみにこのNo.266はヘンミに在庫として2002年頃まで残っていて、この頃は他の両面計算尺同様にケースが枯渇してしまったため、黒のビニールサックケースに入り、説明書はコピーを製本したものだったそうです。ちなみに今回入手のNo.266はデートコード「SG」で昭和43年7月の紺帯箱時代のものです。

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November 07, 2020

HEMMI No.70 20"リッツタイプ精密技術用の戦前戦後

Hemmi70_20201121143101  HEMMI No.70は20‌インチの計算尺としてHEMMIでは一番数が多く作られた計算尺だと思われます。というのも戦前から戦時中にかけて軍用兵器や軍需品などの設計に多用されたということもあり、戦後のものよりも戦前のものが数多く残っているようです。当方もかなり以前に山口の徳山から戦前のNo.70と80/3をセットで入手しましたが、この二本は同じ持ち主のもので、おそらくは徳山に存在した海軍燃料廠関係の技術者の持ち物だったのではないかと思っています。
 このように戦時中は普段使いでNo.80を、精密計算用にNo.70をというような組み合わせで使う技術者が意外に多かったようで、その組み合わせが時にはNo.153であったりNo.64であったりもしたのでしょうが、No.70は外せなかったようです。
No.70の戦前モデルのパターンの違いに関しては前回に書きつくしており、改めてその時の記述を読み直してそうだったのかと思い出すことも多いのですが、基本的に戦前モデルはスケール部分を除いた上固定尺から下固定尺までの幅が34mmのナロータイプ。戦後モデルは40mmのワイドタイプ。戦前モデルの目盛は馬の歯型。戦後モデルの目盛は物差し型という見かけの違いがあります。見た目やカーソルの美しさからNo.70は戦前モデルという人も多いですが、当方もリッツタイプなら物差し型目盛よりも馬の歯型目盛のほうが。さらにセルの剥がれどめのスタッドピン付きがより好みですが(笑)
 戦後ワイドボディにモデルチェンジしたNo.70も20インチ計算尺の中では多用されたようですが、それというのも両面タイプの20インチ計算尺よりもかなり割安で、ある計算の精度を出すための計算のみに使用し、普段は10インチの計算尺を使用するというような組み合わせでよく使われたのでしょう。
 このHEMMI No.70はワイドボディの戦後型で、さらに昭和40年代の片面計算尺同様に緑帯箱入りで、ビニール未開封の未使用品ですが、デートコードは探しても見当たりませんでした。面白いことに昭和34年の片面計算尺にのみ存在した裏板が黄色いまるでアルミのヤカンみたいな黄色いアルマイト加工されたものが使用されていて、少々驚いてしまいましたが、ベースボディの仕込みはこの時期のものだったのでしょうか?
 比較のために戦前のNo.70の画像も掲載しておきますがリッツタイプの20インチ尺はこの馬の歯型目盛のほうがやはり美しい(笑)個人的な好みですけど。

 これ、外箱は無かったものの冊子型で精密用(技術)No.70,74のタイトルの説明書が付属しており、説明書のデートコードは7401Yと昭和49年1月印刷のものだということはおそらく説明書としては最末期のものです。もっともNo.70よりもポケット型のNo.74のために増刷したのでしょうが。

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November 06, 2020

HEMMI No.201 20"両面超精密用

Dvc00788  いただきものの未開封新品HEMMI No.201です。このNo.201は超精密計算尺の部類に入る20インチ計算尺ですが、発売されたのが昭和40年代も中頃にさしかかる時期になってからということもあり、製造された数も期間も非常に短かったらしくかなり貴重な計算尺です。さらにそれがまったくの未開封新品となりますとおいそれと開封するわけにもいきません。日中戦争から太平洋戦争にかけて兵器や軍需品の設計が盛んになるにつれて10インチ計算尺よりもさらに精密な計算尺の必要性が高まり、HEMMIから発売されたのが超精密計算尺のNo.200でした。このNo.200はC,D,尺のみ16インチの長さの目盛りを6分割して両面に配置したものでその基線長は96‌インチとわずかに4インチの差で100インチに足りません。なぜ100インチにしなかったというのが不思議な感じですが、20インチ尺を5本並べる計算尺の本体を作れないというような特別な事情でもあったのでしょうか?

Hemmi201 それに比べてこのNo.201は目盛1本の長さは20インチながら基線長が80インチと16インチも短くなり4分割に減ったかわりにC,D,尺に加えてL,A,K尺が加わり、利便性が高まったものです。単純に96インチの基線長が100インチになったのかと思っていたのですが、実際にはやや精度が落ちた代わりL尺A尺K尺が加わったりしたリニューアルではなくまったくの別物計算尺ということがわかりました。というのもNo.200は20インチの両面計算尺No.275DやNo.279Dなどと比較すると、ベースボディがやや短いワンオフの専用サイズで、それだけ別に追加生産するのが大変だったのか、コストダウンのため20インチ計算尺のボディを統一するために出来上がったものがこのNo.201なのでしょう。しかし、発売された時代が悪く、ちょうど電卓などが台頭してきた時期に重なったため、もしかしたら唯一ワンロットくらいしか製造されなくて、それがずっと流通在庫として残っていたかもしれません。まだ探せばどこかの廃業寸前の地方文房具店の奥に在庫として残っているところもあるのでしょうか?一時期ほどではないにしろ未開封新品でオークションに出品されたらさぞかし高額の落札金額になるでしょう。ちなみにこのHEMMI No.201は中古品でも概ね10万円前後。2年前に発掘された未開封新品は25万5千円以上で落札されています。発売当時の定価は何と14,000円もしました。
 このNo.201は計算尺競技会の北海道地方大会優勝賞品として獲得したものだそうです。優勝した事実のほうが嬉しくてまったくこの商品には興味がなく、50年近くそのままになっていたというもの。そんなものを当方が開封するわけにもいかなく、そのまま資料として保管せざるを得ませんでした。
 これを見せられたときには思わず「おお、何とNo.201ですか」と声が出てしまったことを正直に告白します(笑)
 デートコードは「PJ」で昭和40年10月製造のベースボディを使用したものです。説明書のデートコードは6801Yでした。ちなみにうちにある同じベースボディのHEMMI No.275Dのデートコードは「QE」で昭和41年5月。20インチの両面で紺帯箱ケースのものはだいたいこの時期に集中して仕込みをされたものなのでしょうか。

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November 05, 2020

HEMMI No.136 6"ダルムスタット機械技術携帯用

 HEMMIのダルムスタットタイプの10"計算尺であるNo.130の6"版No.136です。需要と供給の関係からかHEMMIの6"計算尺というのはかなり希少な存在で、No.66にしてもNo.86Kにしても市場に出回った数は少なく、オークションでもなかなか見かけない存在ですが、このNo.136はさらに輪をかけて見つからない6"計算尺です。十数年前、奇跡的に未使用で10本くらい立て続けに出品されたのが本当に最後だったかもしれません。というのもダルムスタットタイプの計算尺自体、リッツ同様に1910年代から1940年代くらいまでに欧州で技術用として普及した片面計算尺で、その後両面尺のLogLog尺が普及してくると、それをわざわざ使う理由がないため、急速に廃れていたタイプの計算尺だからです。ましてHEMMIでは昭和15年頃にダルムスタットタイプのNo.130の発売を予告していたものの、太平洋戦争勃発で発売を見送り、戦後になってから発売されたもので、すでに商機を失っていたような存在でした。そのかわりといいますか、戦時中に多用されたのは電気用No.80で、べき乗尺があることからNo.64のリッツや電力用両面尺のNo.153とともに軍事開発用として多用されたためか、戦前尺がよく出てきます。
 そのNo.130は戦後発売の計算尺にも関わらず戦前に出来上がった目盛の型を使用していたためか、戦後新たに発売になった片面計算尺中、たぶん唯一目盛が馬の歯型目盛というまるで1920年代までの計算尺のようなデザインの計算尺ですが、このNo.136は戦後に新たに型を起こしたようで、物差し型目盛で発売されています。No.130同様に下固定尺側面にS尺T尺を配置し、カーソルはこのためのインジケータとカーソルグラスには副カーソル線が付く専用品です。このカーソルは予備品が手に入る可能性が奇跡に近いレベルなので、もしカーソルなしの本体が手に入ったとしても、新しいカーソルと合体するのは「永遠のゼロ」かもしれません。
 尺配置はNo.130同様でL,K,A,[B,CI,C,]D,Cos,で側面にSin,Tg,、滑尺裏面がLL1,LL2,LL3,の全13尺。尺種の記号が刻まれないのはこちらも戦前尺の割り切りを踏襲しているのでしょう。延長尺の基点がNo.86Kのように差があるものが存在したかどうかは情報はありませんが、おそらくは発売当初から変化が無かったのではないかと思います。この個体のデードコードは「TB」ですから昭和44年の2月。あまり要求がない6インチのボディをこの期に及んで仕込むというのも不思議な感じですが、何か特注の専用計算尺などに使用するため、6インチベースボディはちゃんと用意しておく必要があったのでしょうか?説明書はNo.130と兼用のデートコード67-06Yの短冊形と古いものの使い回しのようです。No.130は昭和40年代前半にNo.130Wにマイナーチェンジし、側面のSin,Tgを表面にもってきて側面尺を廃止し、たた幅広の計算尺になりましたが、さすがに6"のNo.136はそこまでの需要もなく、在庫が尽きるまでそのまま売られたようです。
 このNo.136は昭和40年代末期にヘンミ主催の計算尺競技会の地区大会入賞の商品だったそうで。HEMMIにしてみればあまり需要のない在庫のものを厄介払いしたような感じだったのではと思っています。そのため未開封の新品で、外箱のラベルにはNo.136機械技術携帯用\2500のラベルがありました。

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