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November 08, 2020

HEMMI No.266 電子用の利便性は?

 HEMMIの電子工学用計算尺No.266の2本目を実に16年ぶりに2K円で入手しましたので、その後に判明したことや使い勝手などいろいろ含めておさらいしようと思います。
 No.266以前にはHEMMIにはNo.256という通信用計算尺が存在しましたが、このNo.256の原型というのが太平洋戦争直前に重電の芝浦工作所と合併して東芝になる前の弱電メーカー東京電気が発注した通信用計算尺がルーツです。確か昭和14年位にリリースされたと思いますが、それが戦後にNo.256に発展したものの、急速に広がった回路のトランジスタ回路などの要素がなく、特に回路に重要になってくるフィルターなどで使用する同調周波数を簡単に計算するという要求に答えることはできませんでした。しかし、さすがにHEMMIでは自前でこれらを設計する技術者はおらず、このNo.266は当時トランジスターラジオの小型化で世界を席巻したソニーが昭和36年に設計したものだと言われています。それは確かヘンミサークル誌かなにかで見たような情報ですが。
 このような新しい計算尺のため、発売期間中にケースが3パターン(緑、紺帯、青蓋ポリ)あるくらいで、本体には目立った変更点が無いのですが、唯一周波数の国際単位の変更があり、日本では1972年の7月1日から施行されたサイクルからヘルツへの変更で、このNo.266に刻まれた周波数の単位もMcからMHzに変更になっています。その時期に関してはデートコードがU(昭45年)より前のものには見当たらずU以降のNo.266から周波数単位が変更されたようです。厳密には2年のエージング期間があったと思われますので、昭和45年発売のものがそうだったわけではなく、昭和47年発売のものから新しい単位が刻まれて発売になったということなのでしょう。ちなみにうちのNo.266説明書(6606Y)は当然のことMc表記です。ただ、輸出用に限っては昭和47年以前から変更されていた可能性は否めません。というのもこのNo.266は新しいジャンルの計算尺ということもあり、世界的に重宝されたようで、特にベトナム戦争中の米軍用の備品としても使用されています。うちに以前からあるNo.266は厚木在住のJA1のOMさんからわざわざ譲っていただいたものですが、このNo.266が実は米軍放出品のいわゆるアメジャンとして出たもので、金属部分に備品番号がしっかり刻まれているという珍しいもの。その同じカテゴリーナンバーがワイズの複素数計算尺という大変珍しいスミスチャートを円筒にした相模原から発掘された計算尺にも刻まれていました。米軍のどの部署で使用されていたのかは不明ですが、奇しくもこの2つの出どころは同じでしょう。
 このNo.266の表面べき乗尺はD尺ではなくてA尺に対応しているのが特徴で、そのためにこのような形態になっています。また電気の計算では2πを多用するため、A,B尺C,D尺にも2πのゲージマークが多用されてますが、表面で計算する必要がないためか1/2πや4πなどは見られません。それらの絡む計算は裏面で行うようになります。このNo.266を日常の計算に使用しやすいかというとそれは否で、やはり√10切断やπ切断ずらしを備えている方が使いやすいことは確かです。裏面は各種電気系の計算に使用しますが、まずr1,r2を使用した並列抵抗、直列容量の計算ですが、こんなもの回路図見ただけで頭の中でぱっと計算できないと電気系の試験なんざ合格点もらえません。なのでまったくの不要。インピーダンスだってリアクタンスだって問題用紙の余白に計算式書けば簡単に計算できるから不要。同調周波数計算と言っても基準点から終点の10インチの間に10の何乗もの範囲があるわけで、大まかな数字しか出ないうえには実際に計算するしかないため、これも不要。波動インピーダンス、時定数、限界周波数などといっても公式に数字を当てはめれば計算は難しくないからこれも不要。ってまあ専用計算尺なんて毎日同じ業務をこなさない限りは片面計算尺のNo.2664Sが一本あれば済む話ですから、このNo.266なんかはかえって煩わしいです。
さらに単位の範囲が10の何乗にも及ぶため、かなり誤差のある概数しか読み取ることが出来ず、ちゃんとした答えを要求される試験などにも使いにくいです。
 ただ、ある程度は電気の初歩の初歩くらい齧り、原理原則がわかっていて計算式が頭の中に入っていなければいけませんけど。
 まあ、常に同調周波数などを計算する回路上のフイルターなんかを設計する人だけには有用かもしれませんが、おそらくトランジスタラジオメーカーのソニーの回路設計の利便性のために設計したものですからこういう回路設計に縁のない人は無用の長物。計算式に数字を当てはめていくのであれば、1/2π,2π,4πなどのゲージマークを備え、π切断ずらしのHEMMI No.254W-Sとか√10切断ですがRICOH OD-151の高校電子科向きのもののほうがかえって使いやすいと思いますが…。でも人はなぜかNo.266をけっこうな金額払って欲しがります(笑)
 ちなみにこのNo.266はヘンミに在庫として2002年頃まで残っていて、この頃は他の両面計算尺同様にケースが枯渇してしまったため、黒のビニールサックケースに入り、説明書はコピーを製本したものだったそうです。ちなみに今回入手のNo.266はデートコード「SG」で昭和43年7月の紺帯箱時代のものです。

Hemmi266
Hemmi266_20201108124701

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