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January 24, 2021

HEMMI No.2664S 解体新書

Ealyhemmis_20210124171101  永遠のスタンダード片面計算尺で、おそらくはヘンミ計算尺で一番数が多く製造された10インチ片面計算尺がNo.2664Sです。その数の多さゆえに望むと望まざるにも関わらず、手元にはすでに十数本のNo.2664Sが溜まってしまいました。その中で単独指名買いしたのは3本ほどで、後は他の計算尺が目的だったもののなかに含まれるという形でどんどん増殖したものです。さすがに最近は10束からげの計算尺など落札することはありませんので増殖のペースはほぼ終息したものの、いまだに頂き物のNo.2664Sが舞い込んでくることもあります。誰も手掛けなかった製造初期から末期までのNo.2664Sの完全解説をすでに十年来、誰かが手掛けてくれることを期待していたのですが、さすがにそういうことを試みようとする酔狂な方は現れなかったので自身でとりあえずまとめてみようとする無謀な試みです。
 このNo.2664Sは基本的には戦後型のNo.2664にグリーンで着色されたCIF尺を追加し、滑尺裏面の三角関数逆数の数字を赤入れし、さらなる連続計算に対応させたものなのですが、おそらくはその当時から盛んになりつつあった計算尺競技大会へのさらなる利便性追求という意味合いがあったと思います。そのため、当初はNo.2664に対して別製のSPECIALの意味合いでNo.2664SとSを添付したのでしょうが、生産はすべてNo.2664Sに切り替えてしまったために、なにかNo.2664STANDARDのような意味合いになってしまった感があります(笑)もっとも後にNo.2664S SPECIAL(後にNo.2664S-Sに改名)が発売されてますから、こちらの発売後はNo.2664STANDARDの性格を帯びたことは否めませんが。

HEMMI No.2664(HG)初年度製造品

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                    比較のためにHEMMI No.2664(GD)最末期型
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 このNo.2664Sの生産初年度は今の所「H*」刻印の昭和32年度のもので、今の所「HF」刻印の昭和32年5月のものを確認していますが、もしかしたら前年「G*」のものが存在するかもしれません。この初年度製造品のものだけ異色の存在で(但し翌年年初生産の「IA」などは同一仕様)、目盛や刻印の刻み方などがNo.2664とほぼ同一です。No.2664の出来合いのものに滑尺だけCIFを刻んだものを差し込んだ感じで、刻印も裏側センターに”SUN"HEMMI JAPANと同じ級数でデートコード、右にオフセットされた形式名No.2664Sが刻まれ、DF,CF尺のずらし部分のデザインもNo.2664と同一です。翌年「Ì*」刻印の昭和33年度からのNo.2664Sはそれらがまったく改められますので、初年度製作分だけが滑尺以外No.2664の流用で、翌年から新たにNo.2664Sとして新しく目盛の金型を起こしたのでしょう。滑尺のみの変更に留まってますからCIF尺に加えて裏面三角関数逆数の数字が赤文字に変更されています。それゆえ、この初年度にしか無いNo.2664とほぼ同一のNo.2664Sは貴少な存在です。

Hemmi2664shg2 2664sスケールは固定尺上が27センチ長のメトリック。下固定尺側面が10インチスケールが刻まれています。ケースはスモールロゴの緑貼箱入りでケースの形式名ラベルはなぜがこの年だけぶどう色の「SUN MADE IN JAPAN NO.2664S」というものが貼られており、翌年の物は「SUN HEMMI JAPAN NO.2664S」で赤色のものが貼られています。バックプレートのアルミは2か所ねじ接合があり換算表も脱落防止のためねじ止めになっています。
 No.2664S初年度製造品の画像を便宜的にNo.2664S(#1)としておきますが、裏面を見るとわかる通り「HG」刻印ですから昭和32年7月製。これが今のところ手元にある一番古いNo.2664Sです。2本まとめて入手したものの一本で、当初カーソル取りにでもなればと思っていたものの、手元に届いてから初年度製造品と判明しコレクション入りしたもの。末期のNo.2664と比べるとほぼ滑尺部分だけの変更だということがよくわかると思います。

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Hemmi2664sii
 No.2664S(#2)はデートコード「II」で昭和33年9月製。この時から緑の貼箱時代を通じてNo.2664Sとしての様式が定まったようですが、この緑箱時代にも細かい所の変更は何カ所か見受けられます。形式名はメーカー名とともに裏面中央に移り、デートコードは目立たない小さな級数でその左端にホットスタンプで入れられることになります。CF尺DF尺のずらし部分もNo.2664Sとしての体裁は整ったものの、ゲージマークが古い書体のデザインが使用されており、数字の2の末端がはねていたり、4の縦棒に足が付いていたりして上下のK尺A尺と中程のCIF尺CI尺の書体に対してDF尺CF尺C尺D尺の書体が異なっていますが、後のNo.2664Sはすべて同じ書体の数字が使われています。裏板の両端と換算表はネジ止め。箱はスモールロゴの緑貼り箱です。
HEMMI No.2664S(JI)
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HEMMI No.2664S(JG)インチスケール
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 次のNo.2664S(#3)はデートコード「JI」で「II」からちょうど1年後の昭和34年9月製なのですが、1年で仕様が変わるわけでもなく基本的には数字書体もゲージマークデザインも変更はありません。この時代は固定尺上が10インチスケール、下固定尺側面が27cmのメトリックスケールというものもあります。便宜的にHEMMI 2664S(#3-1)としておきます。本来対米輸出用なのですが、このころから需要に供給が追いつかなかったからか、インチスケールのものも国内に出回っていたというのは初期のJ.HEMMI時代の計算尺とは事情が異なります。ただ、この「J〇」刻印の片面計算尺独特なのですが、バックプレートのアルマイト処理がアルミのヤカンのように黄色っぽいものが付いているものがあり、他にはNo.64にもこの黄色いアルマイトバックプレートが付いているものを持っています。単純に発注ミスでこういうものが納品されたのかは知りませんが、昭和34年生産者の全般がそうなのか、ごく一部がそうだったのかは未だ確認できていません。ケースはスモールロゴの緑貼箱で、このケースは翌年からラージロゴの緑貼箱になったようです。
HEMMI No.2664S(ME)

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HEMMI No.2664S(NB)

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HEMMI No.2664S(OG)

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HEMMI No.2664S(P*)

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 次がNo.2664S(#4)でデートコード「ME」の昭和37年5月製。この頃は団塊の世代が高校進学期を迎え、さらに全国での計算尺競技大会が盛んになって各高校の計算尺部が競技会でしのぎを削っていた時代です。そのため、No.2664Sの生産も飛躍的に増大し、早くも新しい目盛の金型を起こさざるを得なかったようです。基本的には尺度や目盛の切り方、数字などには変更はないのですが、ゲージマークのπのデザインが新しくなったり微小角度分秒換算マークの尾が巻かなかったりやや近代的なデザインに変わったという印象を受けます。
Hemmi2664sog2 また裏板の両端2箇所のネジ止めがなくなりましたが換算表は相変わらずネジ止め。また上面スケールは27cmのメトリックなのですが、下固定尺側面のスケールはインチを止めて13-0-13cmのスケールに変化しました。同時代のNo.64などとも共通の変更です。換算表は以前からのものと同じ図形入り換算表です。ケースはラージロゴの緑貼箱です。この時代が少なくとも5年は続いたようで、N、O、P、Qあたりのデートコードのもの見ても変更は見当たらないような気がします。No.2664Sにあっては一番世の中に数が多く残っているタイプのNo.2664Sです
参考までにNo.2664S(#5)「NB」No.2664S(#6)「OG」No.2664S(#7)「P*」の画像も載せておきます。
HEMMI No.2664S(TE)

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新旧No.2664Sの滑尺裏TI2,TI1,SI尺の目盛相違(上旧、下新)
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 No.2664S(#8)はデートコード「TE」の昭和44年5月製。ケースは緑帯時代のものになりますが、この時代のものは他の片面計算尺同様にメーカー名モデルネームが表面下固定尺右に移動したもの。換算表は以前のNo.64などと同様に図形の入らないものに変わりました。スケールは上面27cmのメトリック。下固定尺側面は0-13-0のメトリックスケールであることには変わりません。
Hemmi2664ste2 ただ、滑尺裏のTI1,TI2,SIの目盛の刻み方が以前のものよりも微細になり、一見デシマルの10進になったのかと見誤るほどですが、ちゃんと度分秒は6進には変わりません。ただ、モデルネームが前面に移動したNo.2664S-SやNo.2662なども三角関数目盛も細分化しているので、一斉にそうなったということも言えるのかもしれません。この年のモデルは換算表がネジ止めなのにも関わらず、すでにアルミ裏板に換算表の抜け落ち防止のプレスで施された突起があり、翌年のものには換算表のネジ止め自体が廃止されたようです。No.2662やNo.2664S-S等と同様にメーカー名形式名が表側に施され、一気に近代化したような印象を受けるNo.2664Sです。
HEMMINo.2664S(WI)
Hemmi2664s
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 No.2664S(#9)はデートコード「WI」の昭和47年9月製で青蓋のポリエチレンケース入りのものです。当時は団塊の世代の大量需要期が去り、就学児童数も減少。さらに義務教育での計算尺も重要度が下がり、うちの学校みたいに数学の先生が計算尺の項目をすっぱり端折ってしまったような学校も多かったのでしょう。需要は10年前と比べて激減してもスタンダードな計算尺は用意しなければならず、特にNo.2664Sはある意味HEMMIの顔みたいなものですからなくすわけにもいかなかったのでしょう。Hemmi2664swi
ところが以前の目盛金型がそろそろ寿命だったのかこの最終型のNo.2664Sは目盛の金型をわざわざ新たに起したようです。基本的には直前の緑帯箱時代のものと変わらないのですが、すでに換算表にネジがなく、ゲージマークや記号のデザインが微妙に異なり、下固定尺側面の0-13-0スケールが廃止されてこの部分が真っ白になってしまい、カーソル上面の刻印もなしで下面にはHEMMI JAPANとだけ。何かコストダウンの進んだ成れの果てとか、行き着くところまで行き着いたというような印象があります。もしかしたら目盛の金型を含めて山梨に丸投げ製造させたNo.2664Sなのでしょうか?流通在庫にはまだ緑帯時代のNo.2664Sが多く残っていたためか外箱に「プラケース入り」のシールが貼られたものを見かけます。しかし、内容の差はともかくも新しいものほどいいだろうと思うのは人間の性で、廃業文房具店からのデッドストックもので出てくるのは圧倒的に緑帯箱時代のものが多いようです。ただ、個人的には緑帯箱時代の物がNo.2664Sの進化の頂点で、このプラケース入りNo.2664Sは明らかに退化の始まりのように思えるのですが…。

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January 13, 2021

HEMMI No.43A 8"学生用

 HEMMIの8インチ学生用計算尺のNo.43Aですが、この珍しくもない8インチ学生尺がいままでなぜ取り上げていなかったかというと、同じ尺度で近代的なプラ尺のNo.43Sをすでに所持していたことと、これだけを目的に送料まで掛けて落札する気にならなかったからです。他の8インチ学生尺もそうですが、10把からげで入手したもののなかにたまたま紛れ込んでいたということでなければ自分の意志では購入しない計算尺の一つでした。今回入手したのは10把ではないものの4本まとめての購入の中に紛れ込んでいたものです。
 この竹製ニス塗り8インチ学生尺はかなり以前から山梨に製造委託に出ていたようです。というのも昭和30年代の初期から中期に掛けての団塊世代の大量進学にあたり、とてもHEMMIの生産ラインだけではその需要をすべて満たすことは出来ず、当然のこと他社のアウトソーシングが必要となったことだと考えていますが、もしかしたらHEMMI本工場では10インチの片面尺両面尺をメインに製造し、学生尺やプラスチックのポケット尺などは当初から山梨に製造させていたのかもしれません。
 このNo.43Aは√10切断のNo.45Kなどと違ってどうも教科書準拠の計算尺と異なるためか、No.45Kと比べると製造数はかなり少なめのような気がします。それでもプラ尺化してもNo.43Sとして作り続けられたわけですから、教える先生によってはこのK尺付きポリフェーズドマンハイム尺じゃないといけないとでも言うような信者がいたのでしょうか。尺度は表面がA,[B,CI,C,]D,K,の6尺、滑尺裏がT,L,S,の3尺の合計9尺です。
 どちらにしても授業で数回使用しただけで放り出された類の計算尺のようで、中のビニール袋もちゃんと残っていたきれいな計算尺でした。デートコードは「QB」ですから昭和41年2月の製造。これがプラ尺化してNo.43Sになったのは知る限りではデートコード「T」の昭和44年製造分からのようです。ケースは緑帯の貼箱入りでした。

Hemmi43a
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January 11, 2021

HEMMI 8"片面砲兵計算尺

 結構なレアモノのHEMMIの砲兵計算尺です。この計算尺は昭和17年にリリースされたと言われていますが、この計算尺に対して陸軍が独自で教本を製作した様子はなく、砲兵用計算尺の解説書は同じく昭和17年にHEMMIから大井勇という人による「砲兵計算尺教程」というものがリリースされており、砲兵計算尺という軍用分野の計算尺ながら、設計から教本まですべてHEMMIという民間主体で行われたことが特筆に値します。宮崎治助氏の記述によるとこの砲兵計算尺も後の苗頭計算尺もヘンミ計算尺研究部部長の平野英明氏の設計だということです。
 ただ、この計算尺は内容を見てもわかると思いますが、ある程度の理論や数学的な素養のある旧制の中等学校を卒業してそれ以上の上級学校や砲術の専門教育を受けたもの対象だと思われる計算尺です。おそらくは下士官兵ではなく将校ではないと使いこなせないと思われる計算尺で、そのためのちに極力理論的なことは廃して、数字が振られた順番通りに使用するようになっている苗頭計算尺に取って代わられ、下士官兵でも使えるようなものに変わったのだと思います。
 またこの砲兵計算尺は中等学校計算尺のNo.2640同様に8インチというオフサイズの計算尺です。これは陸軍の公式書類のB5が収納出来る革製の図嚢に収まるサイズということで8インチを採用したのでしょうが、No.2664と同じベースボディで8インチというオフサイズの計算尺を特別に用意するのは生産効率が悪いので、のちの苗頭計算尺はNo.2664と同じベースボディの10インチ計算尺になっています。
特徴的なのは三角関数の360度を6400分割するmil単位を使用していることで、これは1km先の1mの長さの見かけ角度に該当し、軍用の13年制式双眼鏡や89式双眼鏡、それにカニ目と呼ばれた砲隊鏡などに刻まれる十字のメモリの単位milと共通です。うちの陸軍対空監視所で使用されたという東京光学の89式や大戦末期の鈴木光学8x30mmの双眼鏡には十字形milメモリが。戦後の日本光学7x50mmのトロピカルにはL型のmil目盛が刻まれていますが、今の時代にはこの目盛はあまり利用価値もありませんが。
 このHEMMI砲兵計算尺は昭和17年の製造ということであの薄いアルミの灰色アルマイトの裏板が使用されており、この灰色アルマイト板の表面と内部が金属の鋲で貫通することと、それに湿気が加わることにより一種の電池のようになり、電位差でどんどん酸化・腐食していき、ボロボロになって脱落するという重大な欠陥があります。これが戦争末期になるとこの灰色アルマイト処理もなくなるのでこのような電食酸化状態の裏板にはお目にかかりません。また悪いことに酸化で体積が膨張してしまい、裏板が嵌っていた溝を押し広げて変形させるということになり、入手した砲兵計算尺も例外ではありませんでした。おそらくは何十年もケースに入れたままタンスの奥にでも入っていたのでしょう。また割れた3本線カーソルは副カーソル線が8インチの基線長の専用品でNo.64などと共用することが出来ません。試してはいませんがNo.66用カーソルだったら交換は可能でしょうか?それってNo.66はNo.64をそのまま短縮したわけではないのでムリですね…
 尺度はL1,DF,[CF,L2(L1),C(CI),]D,Aで裏面がT1,T2,S1,S2,とありますが、上面スケール部分に1-10,600-0の等間隔目盛、裏面固定尺部分に0-200の等間隔目盛と5-∞の対数目盛が存在します。さらに√10切断のずらし尺を供える計算尺としてはNo.2664よりも先行していますが、それはNo.2664にこの灰色アルマイトのものが見当たらないことからもわかると思います。しかし、果たしてHEMMIの√10切断ずらしの片面計算尺で一番最初にリリースされたものは何だったのでしょうか? 固定尺裏に「サツマ中イ」の彫り込みがありますから下士官ではなく将校の持ち物だったことが証明されますが、これが軍からの支給品なのか自弁で調達するようなものだったのかはわかりません。将校用の装備というのは被服から双眼鏡、軍刀や拳銃まですべて自前で購入しなければならず、拳銃はブローニングM1910が50円、コルト32オートが60円ほどに対し軍刀は80円から150円くらいしたそうです。そのような状態ですからおそらくこのHEMMI砲兵計算尺も軍からの支給品ではなく偕行社などを通じで自費で購入したものなのでしょう。それを証明するようにケースも当時の市販品と全く変わらない黒の蓋付き紙ケースです。おそらく苗頭計算尺は下士官に対する軍の支給品ということが砲術に関する2種類の計算尺が存在した理由なのでしょう。

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