計算尺検定試験用に特化して各学校の先生たちの意見を取り入れて「検定用計算尺」を各種取り揃えていた山梨は技研工業の片面高級検定用計算尺の最終進化型、技研No.250Sです。No.250の滑尺上にB尺を追加してA尺B尺相互の計算が可能になっただけで、内容的にはまったくかわらないのですが、個人的にはNo.250は未使用新品で所持しているため、1尺追加の違いだけのNo.250Sに手を出すのは忸怩たるものがありました。それでもNo.250Sにしてもその残存数は非常に少なく、ここ15年ほどでオークションに出てきたものは両手の指の数にも満たないものがあります。ただ、つい最近オークション上に技研計算尺の未開封品デッドストックが次々に出品されていますので、やや有り難みは少なくなりました。そのオークションとはどうやら同じ鉱脈の出らしいのですが別ルートで入手したものです。技研計算尺の考査は以前、No.250のときに書き尽くしましたのでばっさりとカットしますが、昭和38年を境に旧型番と新型番が存在し、同形式番号でも違う計算尺が存在すること。昭和38年版の冊子型説明書に「大正計算尺」の記述の箇所に二重横線をして「技研計算尺」にスタンプを押したものが後に活字を「技研計算尺」に組み替えた改訂版が存在すること。昭和40年頃に一旦会社を清算させ、東京の富士計算尺の販売会社主導で設立された新会社富士計器工業に乗っかって新会社「技研産業」を設立し、以後は独自ブランドの販売をやめてFUJI計算尺やHEMMIの学生尺などのOEM製造専業になったという流れがあるようです。昭和46年にはドラフターなどの製図用品ムトウの傘下に入り、ドラフタースケールなどを製造しながら今に至りますが、20年ほど前まで会社には以前製造したものの納品しそこなったのかFUJIやHEMMIはおろか、技研ブランドの計算尺まで倉庫に転がっていたらしいというmyukiさん情報もあるのですが…。ただ最近、技研産業の情報が流れてこないので、もしかしたらこのコロナ禍もあってプレートなどの精密彫刻の需要も減り、開店休業状態かと心配しているのですが、その際、残留物が換金のため今回市場に流れたものであったら悲しいものがあります。富士計器工業の系統だったフジコロナ精器も中国製環境家電の輸入会社に業態変更したものの10年以上前に廃業に至ったようですし、山梨の計算尺に関わった会社の最後の牙城として存続していてほしいものです。
この技研No.250Sは高級検定用計算尺として発売していたNo.250の発展型でSはHEMMIの型番末尾のSを真似して「SPECIAL」のSなのでしょう。別にNo.250の別製で高校からの特注品というわけではなく、単なるNo.250のマイナーチェンジ版だと思うのですが、表面の滑尺上にB尺が加わっただけではなく、滑尺裏の三角関数尺の配置が変わり、さらにC尺が加わったことで滑尺を裏返してD尺DI尺と三角関数絡みの計算の利便性をより高めたということなのでしょう。尺度が表面L,K,A,DF,[CF,CIF,B,CI,C,]D,DI,LL3,LL2,LL1,の14尺。滑尺裏がST,T2,T1,S,C,の5尺で合計19尺に対し、No.250はL,K,A,DF,[CF,CIF,CI,C,]D,DI,LL3,LL2,LL1,の13尺で滑尺裏がT2,T1,ST,S,の4尺ですからNo.250Sが2尺増えて合計19尺に対してNo.250は合計17尺です。上下の固定尺側の尺度に差はなく、滑尺の表裏だけ新しい目盛金型を起こしただけのことですが、19尺といえばRICOHの高校生用両面計算尺No.1051Sあたりと同じコンテンツなので、ここまで片面計算尺に詰め込む必要があるのかどうかははなはだ疑問です。まあ、追随して同様の計算尺を作ったメーカーもなく、FUJIにしてもNo.2125を高校生用として継承した程度ですから技研に生まれて進化を極め、技研で絶滅した片面計算尺の恐竜のようなものなのかもしれません。幅も5cmと両面計算尺のFUJI No.1280-T並の片面計算尺としては異例の幅広計算尺です。また、No.250は普通の蓋付きの貼り箱に入っていたものの、このNo.250Sだけは昔の筆入れのようなボール紙を芯にしたビニール製ケースに入っています。このケースのデザインは誰が設計したのか計算尺のケースとしては秀逸で、ケースのフラップを開けると上面下面に同じ形の窓が空いていて、この窓で計算尺の本体を親指と人差指でつまんで少し引き出してやれば楽にサックケースから本体を引き抜くことができるのです。逆さにしただけで蓋ごと本体が落下してカーソルを破損させたりしない細かいアイデアがすごいと思うのですが、このケースの形状はどのメーカーも継承しなかったのはなんとも残念なことで。製造年代は昭和39年に入ってからだと思うのですが、取説の巻末価格表は昭和38年1月1日現在のもの。ピンク色っぽい入山形の表紙で大正計算尺表記を技研計算尺表記に活字を組み替えた版のものなのですが、No.250Sの価格は掲載されておらず、マイナーチェンジ前のNo.250が高級検定用計算尺として掲載されていました。入手先は甲州街道沿いの府中市から。以前に技研計算尺が多く発掘されたのが同じく甲州街道沿いの千歳烏山だったので、もしかしたら甲府から東京に至る20号線沿線に技研計算尺のデッドストック鉱脈が未だに存在するかも(笑)
技研工業No.250S高級検定用(昭39年ころ)
技研工業No.250高級検定用(昭和38年ころ)
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