HEMMI No.257L 10"両面化学工学用
当方、化学系の専門教育を受けているわけではなく、化学系の資格としてはたぶん一番下位の化学屋資格である一般毒物劇物取扱責任者しか所持していませんが、資格試験の勉強にあたっては改めて有機化学の勉強を1からやり直しました。まずベンゼン環にどういう物質がどう結合したらどうなるのかという分子式の問題や分子量、さらに濃度の問題などはかなり手こずりました。まあなんとか一度の試験で合格出来ましたが、その時の合格率は22%くらいだと思います。受験した当時にしても計算尺も計算機も持ち込みは出来ませんでしたが、確かそのあとでHEMMIの化学用計算尺のNo.257を入手しています。このNo.257は分子量の計算などに便利かというとさほどでもなく、電子用のNo.266よりも実用性は???という感じでした。そういえば高校時代2年間化学を担当していた先生が教頭先生で、さらに東大出身であり化学の分子量やモル濃度の計算などは生徒にやらせる時間を惜しんでHEMMIの片面計算尺を使って自分で計算してしまう先生で、よくその口癖の「計算はまかせといてちょうだい」や、計算尺を使って答えを導き出したときの「こんなもんだね」が生徒に真似されてました。「答え一発カシオミニ」ではありませんが、計算尺で導き出す数値が「こんなもんだね」というアナログ感は今の子はわからないでしょう(笑)その最初に入手したNo.257は「GD」刻印ですから昭和31年4月製という大変に古いもので、スモールロゴ時代の緑箱に入っていました。そんなNo.257は日本では唯一の化学用計算尺としてそこそこの数が出回っていましたが、なぜか計算尺末期の昭和40年代半ば頃になってNo.257Lにモデルチェンジしています。 このNo.257Lは計算尺衰退期に差し掛かった時期の新製品でもあり、No.257に比較するとかなり数も少なく、中古品よりも文房具店で売れ残った未開封新品のほうが出回ることが多い印象があるものの、かなり高額で取引される計算尺です。そのため、No.257を入手してから16年も経過して入手したのがこのNo.257Lです。しかし、K尺が加わったのになぜ末尾にLが付いたのかを今までずっと理解していなかったのです(笑)No.257とNo.257Lの何が違うのかというと、表面に2乗尺のK尺が加わり、裏面の尺度の配置が僅かに変わった意外には差がないものの、新たに加熱体と受熱体の対数平均温度差を求める対数平均(logarithmic mean)の尺度が加わり、その頭文字のLが元からの形式名No.257の末尾に付いてNo.257Lになったというのが今回始めて理解しました。ただ、初級ボイラー資格持ちでしかない当方は、いまだかつて対数平均温度差なる言葉にも行き当たった経験はありませんが(笑)
しかし、もう計算尺も400本近いはずですが、よくもまあ今までコレクションに入らなかったというのはNo.257と比べて高額落札になるのに比べて魅力に乏しいの一言に尽きます。それほど熱心なコレクターではないので、どうしても入手しなければならないという気もなく、16年の歳月が経過してしまいました。ところで、いったいいつぐらいにNo.257からNo.257Lにモデルチェンジが行われたかという問題ですが、一応紺帯箱と青蓋のポリエチレンケースが存在することから、おそらくは昭和45年あたりと考えています。ただ、今回入手したものが初物ですから比較検討も出来ず、証明することが出来ませんが、今回のものは紺帯の紙貼り箱でした。また、長らくアメリカで代理店をしていたFREDERIC POSTが昭和42年末に当時マイクロエレクトロニクスと制御システムの優秀な会社を次々に買収して巨大なコングロマリットを形成しつつあったTELEDYNE社に買収されてTELEDYNE POSTブランドに変わるまではHEMMIのNo.257はPOST No.1491としての扱いはあったものの、TELEDYNE POST時代には計算尺の種類も大幅に整理され、No.1460 Varsalog II 以外はほぼ安物のプラ尺ばかりになっていたようで、モデルチェンジしたNo.257Lは見当たりません。海外OEMブランドとしてはフィリピンのODELCO No.257Lがおそらくは唯一の存在のようです。ちなみにこのODELCOというのはフィリピンのDE LEON IMPORT & EXPORT Co.という貿易商社のトレードマークで、1952年以来フィリピン国内の教育機関等に欧米から優秀な文具や教育機器などを輸入して供給した日本で言えば戦前の内田洋行的な(規模はまったく異なりますが)会社らしく、会社の沿革には特に日本のHEMMIから計算尺の供給を受けてフィリピン国内に供給したことがはっきり記載されています。それだけHEMMIとの独占代理店契約はこの会社にとっては重要な意味合いを持つ事柄だったのでしょう。No.257の尺度は表面L,K,A,DF,[CF,CIF,CI,C,]D,LL3,LL2,LL1で、裏面が二分割のCh(アルファベット順列)M1,[M2,華氏F度,摂氏C度,絶対温度K度,LM,]mmHg,Kg/cm2,in.Hg Vac,tω、が刻まれます。このNo257Lの入手先は兵庫の西宮市でデートコードは「VC」ですから昭和46年3月の製造。取説は「7109Y」で、これも昭和46年9月の印刷のようです。
HEMMI No.257L(VC)
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Comments
斎藤様、コメントありがとうございます。
なんとヘンミがHAMフェアでヘンミが全品100均投げ売りをしていたとは始めて知りました。
その後、ヘンミはケースの在庫がなくなり、裸の計算尺にビニールレザーのケースをつけて説明書はコピーのものを注文に応じて定価で売っていたのですからもったいないことをしたとは思いますが、完成品在庫は資産扱いですから早急に整理したい事情があったのでしょうね。
今後とも宜しくお願い致します。
Posted by: じぇいかん | August 08, 2022 07:37 AM
初めまして、ブログを拝見しまして日曜日の朝から読ませていただいております。「たかが計算尺、されど計算尺」と周囲にはいつも話している埼玉の爺です。 昭和40年代に工業高校で工業化学科に入学したため、計算尺は必須科目でした。特に化学工学ではレイノルズ数から始まり計算尺が無いと始まりませんでした。もう30歳以上も前でしたか晴海で開催していたアマチュア無線フェスティバルで、ヘンミ計算尺が事業整理でどれでも1本100円で段ボールに入ってジャク扱いでした! その時に257L・266・149Aを段ボールで買い求めましたが、当時の部下にみんな配ってしまい、今手元にあるのは、数本になってしまいました。
爺となったいまでは、残して置けば焼酎代にはなったかと残念です!!! 先年、ゼロ戦の設計者の堀越二郎氏の遺品を拝見しましたが、ヘンミの片面計算尺がありました。 久しぶりに妙に感激しました。 貴殿のコレクションに加えて、詳細に調べてある計算尺の生産記録にも驚きました、これからもブログを拝見させていただくのが楽しみになりました。
TNX DE JM1LKR CU AGN
Posted by: 齊藤洋一 | August 07, 2022 10:53 AM