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February 25, 2022

HEMMI No.66 6"システムリッツ技術用

 ありそうであまり出てこない6インチのシステムリッツHEMMI No.66ですが、これはDELTA計算尺の抱合せで足利市から入手したものです。残念ながらカーソル割れなのでカーソル裏面からテープ補修していますが、この6インチ専用3本線カーソルの入手の可能性は限りなく「永遠のゼロ」なので、久しぶりにポリカーボネイト板を使ってカーソルグラスを作らなければいけません。幸いにも他にも健全なNo.66が2本あるので、寸法出しと3本線カーソルの再現は可能でしょう。このNo.66は滑尺を抜いた内側に目盛が刻まれており、この部分に"SUN" HEMMI MADE IN JAPANが刻まれているNo.66としては戦争前の輸出にも供された改良型ファーストモデルとでも言うべきものです。A型カーソルからA型改良カーソルに変更になり、さらにセルロイドの貼り方が変更になったためか金属のスタッドが廃止されています。それ以外にはゲージマークを含めて変更点は見当たらないようです。ただし、双方ともに馬の歯型目盛なのですが、これが昭和15年以降のいつ頃からか物差し型目盛りに変更になり、滑尺溝のスケール目盛が廃止され、一時的に尺度記号が入ったセカンドモデルに変更になります。ただ、この尺度記号も戦時型から廃止され、以後は踏襲されなくなったようです。こちらの物差し型目盛のセカンドモデルも随分昔に入手しているのですが、どこに入り込んでしまったのか肝心なときに出てこない(笑)ファーストモデルセカンドモデル共に革のサックケースに入っているのですが、スタッド付きのほうはフラップに「BAMBOO SLIDE RULE "SUN"HEMMI」の金箔押しがあるのにこちらのモデルはコストダウンのためかのっぺらぼうです。セカンドモデルは標準で黒疑革紙貼りの黒紙ケースでした。
 同じくポケット型の5"サイズのシステムリッツにNo.74があるのですが、情報的には戦前から作られていることがPAUL ROSS氏のカタログに書かれているものの、今まで見た一番古いものはMADE IN OCCUPIED JAPAN時代のものです。おそらくはNo.2634同様に戦後になって初めてラインナップに加わり、戦前のポケットタイプとしてはNo.66が携帯用としては標準だったということでしょうか。

Hemmi66_3

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February 24, 2022

信和工業 HATO No.800 8"生徒用

 信和工業のHATO No.800という生徒用8インチ計算尺ですが、これはおそらくは山梨のあるプラスチック計算尺のOEM専門メーカーにより提供された計算尺の一つだと考えていました。というもの、ほぼ仕様が同じ計算尺でプランドだけが違うものが数社確認されているためですが、印象としてはどうやら技研系や富士計算尺系ではなく、まったく別の山梨系統の計算尺のような気がします。ところが考えてみると、今を去ること15年も前に金属板で目盛が逆に陽刻された計算尺の原版のようなものが一度に多数出品されたことがあり、その原版は大阪の業者だったヘブン計算尺のHEAVENのものに混じってHATO No.800の原版のあり、合わせてHEAVENのポケット計算尺で尺全体が拡大レンズになっているものやHATO No.800の箱にも入っていないむき出しの完成品が多数含まれていたのです。当然、山梨のどこかの下請け業者から流れたのかと思っていたのですが、その出処は神戸。ヘブン計算尺が大阪だということもあり、もしかしてこれらは山梨ではなく関西のどこかにプラ尺の製造元があって、そこから高級な計算尺はないものの、8インチの学生尺や5インチの名入れノベルティー専用計算尺などを作っていた可能性がありそうなのです。そうでもなければ山梨で使っていた原版が関西から大量に出てくる道理がないような気がします。ただ、ヘブン計算尺を除いて信和工業にしてもその類似尺のパイロットの計算尺にしてもそのOEM先は殆どは東京の業者なのです。まだ新幹線も開通していなかった時代にわざわざ東京から大阪に計算尺の発注が出ることがあったのかは疑問ですが、その当時ノベルティー名入れ専用クラスのチープな計算尺はHEMMI計算尺や富士・技研系の計算尺メーカーではベースになるモデルがなくて、この時期、在関西の、それもプラスチック加工のメッカである東大阪あたりの工場が一手に生産を担っていたという可能性は大いにあったと思います。考えてみれば東京の興洋商事の名入れ計算尺もベースは関西メーカーのものだったかもしれません。
 そんな関西のプラ尺専門メーカーOEMと考えられる信和工業のNo.800ですが、この手の計算尺に共通の説明書はまるで風邪薬の説明書のようなペラ一枚を折りたたんだもので、発売元の所在地も電話番号もないというシロモノです。尺度はK,A,[B,CI,C,]D,L,の7尺で滑尺裏はブランク。またカーソルはバネこそ入っているものの一枚のアクリル板を曲げて裏側に折り返しているだけの単純なものです。紙の筒型ケースは2種類あるようで、今回のものはブルーグレーの張り箱でした。姉妹品に√10切断系のNo.820があるようですが、それ以上の発展はなかったようでこの2種類以外にHATOブランドの計算尺は見たことがありません。入手先は東京の大田区からでした。

Hato800

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February 23, 2022

OZI SEISAKUSHO 「DELTA」5インチ 計算尺

 終戦後の昭和24年前後に出現し、他に発展することなく消えてしまった日本ではその類例を見ない全金属製計算尺のOZI SEISAKUSHO DELTA計算尺ですが、いまだにその正体がまったくわからない計算尺です。15年ほどの間でも知っているだけで5本もオークションには出ていないと思いますが、その間でわかったことは基本は同一ながら裏側にdB尺があるバリアントが存在すること。また、「日本カーボン」の社名と電話番号が刻まれたおそらくはノベルティー商品ではなく会社備品が存在することの2点しかわかっていません。社名でさえも王子製作所なのか王寺製作所なのかもわかりませんし、その会社がどこに存在したのかさえもわからないのです。
 唯一つ言えることは町の零細業者が手掛けるようなシロモノではなく、おそらくは高度なプレスや機械加工の技術をもつ会社ではないと出来ない加工の製品であることから、たぶん戦時中に軍需品を手掛けた大手の工場の一つで、戦後の財閥解体で分社化され、一時期OZI SEISAKUSHOを名乗ってこのような民需品を手掛けていたものの、昭和20年代後半には元の大手の傘下に戻って社名が消滅した会社ではないかと思うのです。さらに「DELTA」というネーミングから旧三菱の関連会社か?などとも考えたわけですが、いままでそれに対するエビデンスは何一つ発掘できていません。
 ともあれ、戦後の物資不足から軍が本土決戦用に溜め込んでいた兵器用のジュラルミンが放出になり、様々な日用品の鍋や釜やパン焼き機、火鉢やバケツなどがジュラルミンで作られました。我が家にもジュラルミン製のバケツや電熱器、火鉢などが実際にありましたので、けっこう日本中にほんの一時期だけ広く出回ったようなのですが、このジュラルミン製品が溢れた昭和23-4年ごろを称して「ジュラ紀」などとも言うそうです。また戦時中に金属製品が供出され、瀬戸物の製品が代用品として出回った時代を「白亜紀」と称することもあるそうです(笑)
 その放出ジュラルミンを加工して元軍需品製造の会社が作り上げたのがこのDELTA計算尺ではないかと思われるのですが、その証拠としてこの計算尺はMade in Occupied Japanが刻まれており、そのジュラルミンは一年ほどで使いつくされたことや、朝鮮戦争が勃発してからは金属類の高騰でとてもこのような総金属製の計算尺は作ることが出来なかったため、朝鮮戦争以前のほんの短期間にだけ作られたとしか考えられないのです。また、おそらくは航空機用かなにかの薄板を巧みにスポット溶接で組み合わせ、薄板だけの構造でこれだけのものを作り上げた設計者は只者ではないはず。しかし、このような構造的には画期的な計算尺なのにも関わらず、宮崎治助氏の計算尺発達史の戦後の計算尺にも一切紹介されておらず、いままでオークション上に出てきた数からしても総数2000-3000本くらいの間で入手した放出ジュラルミン板の分だけしか製造されず、しかも市販はなく旧財閥グループ企業の間で社用に出回ったとしか考えられないのです。どうもこれだけ手の込んだ総金属製計算尺を市販しようとしても同じものを竹で作った計算尺と比べるとその定価が何倍になるかも想像がつかないほどで、絶対的に商業的には成功はしないはずですし、この計算尺の製造元もこれを発展させようという気はまったくなかったでしょう。それを考えるにつけ、この薄板のみを巧みに組み合わせた計算尺の構造を設計した人が後にどういうものを設計したのか興味が尽きないのです。
 そのOZI SEISAKUSHO DELTA計算尺は最初に入手したものが裏面にdB尺がついていて、カーソルのポインターで目盛りを読むというものでしたが、今回栃木の足利市から入手したのがこのように裏面がなにもないもので、こちらのほうが一般的なOZI SEISAKUSHO DELTA計算尺になります。2本の違いですが、以前入手した裏面にdB目盛があるものが改良品と仮定すると、今回のDELTA計算尺には表面にDELTAのブランド名とOZI SEISAKUSHOの文字ならびに上下の固定尺を繫ぐブリッジにPAT.PEND.NO.14015の打刻がありますが、裏側には一切刻印もありません。これに対して裏dB目盛付きのほうは、表面にはDELTAのブランド名だけで、メーカー名は裏に移動し新たにMADE IN OCCUPIED JAPAN表記が追加されました。さらに逆尺の尺度と数字ならびにDELTAのブランド名が赤入れになりました。裏dB目盛り付のほうは固定尺と滑尺ともに25の打刻があり、今回のものは35の打刻があります。ゲージマークは双方ともにπがあるだけで特に差異はありません。双方ともに滑尺はお互いに入れ替えても寸分の隙間も出来ないほど精密な加工精度があります。

Delta_20220223111101
Delta_20220223111102

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