OZI SEISAKUSHO 「DELTA」5インチ 計算尺
終戦後の昭和24年前後に出現し、他に発展することなく消えてしまった日本ではその類例を見ない全金属製計算尺のOZI SEISAKUSHO DELTA計算尺ですが、いまだにその正体がまったくわからない計算尺です。15年ほどの間でも知っているだけで5本もオークションには出ていないと思いますが、その間でわかったことは基本は同一ながら裏側にdB尺があるバリアントが存在すること。また、「日本カーボン」の社名と電話番号が刻まれたおそらくはノベルティー商品ではなく会社備品が存在することの2点しかわかっていません。社名でさえも王子製作所なのか王寺製作所なのかもわかりませんし、その会社がどこに存在したのかさえもわからないのです。
唯一つ言えることは町の零細業者が手掛けるようなシロモノではなく、おそらくは高度なプレスや機械加工の技術をもつ会社ではないと出来ない加工の製品であることから、たぶん戦時中に軍需品を手掛けた大手の工場の一つで、戦後の財閥解体で分社化され、一時期OZI SEISAKUSHOを名乗ってこのような民需品を手掛けていたものの、昭和20年代後半には元の大手の傘下に戻って社名が消滅した会社ではないかと思うのです。さらに「DELTA」というネーミングから旧三菱の関連会社か?などとも考えたわけですが、いままでそれに対するエビデンスは何一つ発掘できていません。
ともあれ、戦後の物資不足から軍が本土決戦用に溜め込んでいた兵器用のジュラルミンが放出になり、様々な日用品の鍋や釜やパン焼き機、火鉢やバケツなどがジュラルミンで作られました。我が家にもジュラルミン製のバケツや電熱器、火鉢などが実際にありましたので、けっこう日本中にほんの一時期だけ広く出回ったようなのですが、このジュラルミン製品が溢れた昭和23-4年ごろを称して「ジュラ紀」などとも言うそうです。また戦時中に金属製品が供出され、瀬戸物の製品が代用品として出回った時代を「白亜紀」と称することもあるそうです(笑)
その放出ジュラルミンを加工して元軍需品製造の会社が作り上げたのがこのDELTA計算尺ではないかと思われるのですが、その証拠としてこの計算尺はMade in Occupied Japanが刻まれており、そのジュラルミンは一年ほどで使いつくされたことや、朝鮮戦争が勃発してからは金属類の高騰でとてもこのような総金属製の計算尺は作ることが出来なかったため、朝鮮戦争以前のほんの短期間にだけ作られたとしか考えられないのです。また、おそらくは航空機用かなにかの薄板を巧みにスポット溶接で組み合わせ、薄板だけの構造でこれだけのものを作り上げた設計者は只者ではないはず。しかし、このような構造的には画期的な計算尺なのにも関わらず、宮崎治助氏の計算尺発達史の戦後の計算尺にも一切紹介されておらず、いままでオークション上に出てきた数からしても総数2000-3000本くらいの間で入手した放出ジュラルミン板の分だけしか製造されず、しかも市販はなく旧財閥グループ企業の間で社用に出回ったとしか考えられないのです。どうもこれだけ手の込んだ総金属製計算尺を市販しようとしても同じものを竹で作った計算尺と比べるとその定価が何倍になるかも想像がつかないほどで、絶対的に商業的には成功はしないはずですし、この計算尺の製造元もこれを発展させようという気はまったくなかったでしょう。それを考えるにつけ、この薄板のみを巧みに組み合わせた計算尺の構造を設計した人が後にどういうものを設計したのか興味が尽きないのです。
そのOZI SEISAKUSHO DELTA計算尺は最初に入手したものが裏面にdB尺がついていて、カーソルのポインターで目盛りを読むというものでしたが、今回栃木の足利市から入手したのがこのように裏面がなにもないもので、こちらのほうが一般的なOZI SEISAKUSHO DELTA計算尺になります。2本の違いですが、以前入手した裏面にdB目盛があるものが改良品と仮定すると、今回のDELTA計算尺には表面にDELTAのブランド名とOZI SEISAKUSHOの文字ならびに上下の固定尺を繫ぐブリッジにPAT.PEND.NO.14015の打刻がありますが、裏側には一切刻印もありません。これに対して裏dB目盛付きのほうは、表面にはDELTAのブランド名だけで、メーカー名は裏に移動し新たにMADE IN OCCUPIED JAPAN表記が追加されました。さらに逆尺の尺度と数字ならびにDELTAのブランド名が赤入れになりました。裏dB目盛り付のほうは固定尺と滑尺ともに25の打刻があり、今回のものは35の打刻があります。ゲージマークは双方ともにπがあるだけで特に差異はありません。双方ともに滑尺はお互いに入れ替えても寸分の隙間も出来ないほど精密な加工精度があります。
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