CONCISE No.300とSTAR No.1660円形計算尺を徹底比較!
コンサイスNo.300は今でも継続して作り続けられているのか、それとも以前の在庫が残っているのかいまだに普通に購入できる計算尺なのですが、当方は円形計算尺があまり好きではありません。というのも目ハズレがない、同じ基線長の棒状計算尺よりもコンパクトで携帯に便利である利点は認めるものの、指の摩擦で内円を回転させて動作する以上計算速度では棒状計算尺に遥かに劣り、外周と内周の基線長が異なる宿命上、中心に近づくほど精度が劣ること。そして棒状の計算尺は慣れると滑尺を引いた全体のフォルムである程度、置数やどこに目盛が一致しているかという見当がつくものの、円形計算尺はそれがわかりにくくてどうしても一致点を目で追わなければならず、目盛の速読性に欠けるというのもどうも円形計算尺に馴染めない理由です。そのため、現行品ということもありコンサイスのNo.300は今まで入手したことはなく、コンサイスの興味としては展示会などで来場記念品として配られた測定器などの企業ものノベルティーや、企業が自社や関係各社のために特注した特殊用途の計算尺に限られています。
そこで今回、このコンサイスとしては一番尺度の多いNo.300と往年の星円盤計算尺STAR No.1660のフラグシップ計算尺同士を無謀にも比較検討するためにNo.300を入手しました。片や全国ブランドの現行品。片や地方発の絶滅商品で、さらに計算尺界においてもその実態はほとんど語られたことがないという円形計算尺です。
コンサイスのNo.300はコンサイスの円形計算尺としては大型で直径は約11.2cm、これに対してSTAR No.1660はさらに一回り大きい直径約12.8cmもあります。コンサイスのNo.300は表面も裏面も独立して内円が回転する唯一のコンサイスで、そのため表面裏面が単独で計算することが可能なのに対してSTAR No.1660は表面の内円のみ回転可能です。コンサイス No.300は塩化ビニール素材ですが STAR No.1660は金属板をサンドイッチしたセルロイドの円盤です。コンサイスは中心軸のフリクションでカーソルの動きを止めているものの、STAR No.1660はカーソルバーが独立していてカーソルバー内側のフェルトのフリクションでカーソルの動きを止めています。またSTAR No.1660のカーソルには尺度記号が印刷されています。重要な点ですがC尺D尺の部分の直径が双方ともに約8.2cmで、基線長がともに約26cm相当で精度的には10インチの計算尺に合致。しかし、それより内周の尺度は当然のこと基線長が短くなるために、そこに配置された三角関数はコンサイス No.300がT尺2分割でNo.1660がS尺2分割でT尺はなんと3分割で精度を補完し、ともにST尺を備えるというものです。大きさは異なるもののC,D,尺の基線長が同一のため、精度的には何ら変わらず、STAR No.1660はCD尺の外周にLL尺を重ねていったために大きさがコンサイスのNo.300よりも一回り大きくなっているのです。コンサイスNo.300は表面が外周からK,A,D,[C,CI,B,L,] の7尺。裏面がLL3,LL2,D,[C,S,T1,T2,ST,] の8尺で合計15尺。STAR No.1660は表面がLL3,LL2,LL1,LL0,K,A,D,[C,CI,EI,E,]の11尺。裏面が-LL3,-LL2,-LL1,-LL0,L,DI,D,T,S,T,S,T,ST,の13尺の計24尺となっているいわゆるフルログログ計算尺です。HEMMIの両面計算尺でいうと、尺度は一致するわけではないものの用途と機能からするとコンサイスのNo.300はHEMMI No.P253やRICOH No.1051S相当。STAR No.1660はHEMMIのNo.259相当というのが言えるのではないでしょうか。双方とも目外れのない円形計算尺ゆえにCIF尺をあえて入れないのは当然です。また、他ではあまり見たことがない尺度のSTAR No.1660のE尺EI尺は√10から10までの順尺逆尺なのですが、説明書がないためどういう用途でどの尺に対応させて使用するのか当方はわかりません。
コンサイスは戦前に玉屋が発売元だった藤野式計算尺が改良・発展していったもので、特に金属製だったゆえに戦時中製造が絶えた金属重量計算器をいち早く改良・発売し、産業の活性化とともに相当数を売ったようで、昭和30年代には一般用の計算尺やノベルティー物、企業からの特殊用途計算尺の特注も受ける余裕も生まれ、HEMMIやRICOHに次ぐ計算尺メーカーに発展しました。それに比べるとSTAR計算尺は北陸富山市の稲垣測量機械店という個人商店が開発・販売した地方ローカルの計算尺です。それゆえ片や全国ブランドで広く出回ったコンサイスに比べるとSTAR計算尺は北陸3県を中心に新潟、長野あたりまでしか出回っていなかったため、全国的にはまったく知られなかった計算尺です。資本力と宣伝力、販売網のないSTAR計算尺は昭和30年代末には会社とともに消滅してしまったようで、これを昭和40年頃に工業高校進学と同時に購入した富山市内の元設計エンジニアの方は稲垣測量機械店のこともSTAR計算尺が富山市内で生まれたこともご存知ありませんでした。いくら優秀なものを作ったとしても資本力と宣伝力の差で勝ち組、負け組が明確になってしまうのはまさに経済原理ですが、それゆえ負け組の製品が高機能で優秀だっただけに人知れず消えてしまったのは惜しい気がするのです。
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